キッチンの換気扇ごと録った自分の声で音声クローンして、動画37本のナレーションを全滅させた話

深夜0時40分。締切は翌日の昼。タイムラインには書き出し待ちのEC動画が37本並んでいて、僕はそのうちの一本も出せずにいた。

ナレーションが全部ダメだったから。

原因は本当にくだらない。ナレーターを探すのが面倒で、「どうせ今どきのAI音声はすごいんだろ」と思って、自分で3分録ることにした。キッチンにスマホを立てて、換気扇を回したまま、蛇口からはぽたぽた水が落ちてて、隣の部屋では誰かがテレビを見ていた。

録り終わったときは、我ながら上出来だと思った。アップロードして2分待つ。出てきた声は……例えるなら、鉄板越しに誰かが原稿を読んでいる感じ。語尾がこもって、息継ぎの位置がめちゃくちゃで、「期間限定」のところで下に妙な唸りが重なっている。

1本目の動画に乗せて、10秒で閉じた。

何を間違えていたのか

音声クローンの仕組みは、そんなに複雑じゃない。ツールはこちらの録音から「声の特徴」を学ぶ。で、その特徴はどこにあるかというと、きれいな人声の中にしかない。

雑音を渡せば、雑音だけうまく除外してくれる——なんてことはない。むしろ換気扇の音まで「あなたの声の一部」として学習する。だから後から生成した音声すべてに、あの換気扇がついてくる。

二つ目のミスはサンプルが短すぎたこと。3分12秒、しかも途中で咳が2回と笑い声が入っている。材料が足りないから、モデルは推測で埋めるしかない。その結果が「似ているけど本人じゃない」という気持ち悪さになる。聞き覚えはある。でも、自分の声だと言い切れない。

三つ目はもっとひどい。試聴せずに37本まとめて生成した。

最初の二つは技術の問題で、三つ目は態度の問題だ。どんなに優秀な無料の音声クローンツールでも、試聴しない人間は救えない。

振り返ると、落とし穴は4つだった

  • 録音環境:キッチン、換気扇オン、隣室のテレビ音
  • 録音機材:スマホ内蔵マイク、口から30cm、しかも手で持っていた
  • サンプル尺:3分12秒、咳と笑い声入り
  • 試聴:省略、いきなり一括生成

見てのとおり、ツールのせいは一つもない。全部自分のせい。

やり直すときに変えたこと

場所の話をしよう。クローゼットに潜り込んで、扉を閉めて、背中にダウンジャケットを2枚積んだ。スマホは機内モード、口から拳ひとつ分。そこで8分間、感情を乗せず淡々と読み上げる。読んだのは「容量500ml、内側はステンレス、保温12時間」みたいな、いちばん退屈な商品説明だ。

もう一つ変えたのは工程。今度は一気に全部生成せず、カットごとに5〜8秒へ区切って、1本ずつ作った。なぜか。通しで作ると、1フレーズのアクセントがズレただけで全部やり直しになる。区切っておけば、直したい1本だけ差し替えれば済む。効率がまるで違う。

サンプルがきれいになると、結果は一瞬で変わった。無料の音声クローン から出てきた声は語尾がすっと切れて、「販売価格」のあたりもこもらない。ちょっと不思議な感覚だった。ああ、これが自分の声か、って。

オンラインで音声クローンを作るとき、いちばん効くのはツールの選び方じゃなくサンプルの質だ。これは断言できる。

ちなみにこの半年で、無料の音声クローンソフトはかなり試した。文字数制限があったり、待ち行列があったり、3回生成したらアップグレードのポップアップが出たり。VoxClone はテキスト読み上げが無制限で、少なくとも僕は上限の表示にぶつかったことがない。登録不要の音声合成というのも地味にありがたい。20秒の音声を作るためにアカウントを作って、メールアドレスを入れて、認証コードを待つ——あの手間がない。開いてすぐ使える。

今はもう、動画ナレーションAIとして普通に使っている。原稿を貼って数秒で音声、気に入らなければ2文字直してやり直し。無料のAI音声でここまでできるなら、ナレーターを探していた時間は原稿に回したほうがいい。

「AIの音声クローンって、プロのナレーターとどれくらい違うの?」と聞かれる。正直に言うと、商品スペックを淡々と読む仕事なら差は小さい。でも、煽り気味の売り込みトーンが欲しくなったら、自分で抑揚を調整するか、人に頼んだほうが早い。無料の音声合成というのは、要するに「人」のコストを消しているだけで、「判断」のコストは消えない。どこで間を取るか、どの語を立てるかは、結局自分で見るしかない。

「無料」について、正直に書いておく

最初は応急処置として、テキスト読み上げが無料で使えるツールを探していただけだった。正直、永久無料の音声クローンなんて釣りで、2回使ったら課金画面が出るんだろうと思っていた。

半年使ってみた感想としては、VoxClone は登録不要で開いた瞬間から使えるし、オンラインのテキスト読み上げ も同じ。ログインも電話番号の紐付けも要らない。無料TTSでここまでできるのは、正直期待以上だった。無料の音声合成APIも繋いでみたけど、商品の短い原稿をまとめて試聴用に流すくらいなら十分戦える。

ただ、無料が万能というわけでもない。原稿は書いてくれないし、どこで息を継ぐべきかも教えてくれないし、映像のテンポを見てもくれない。ツールがやってくれるのは、文字を「人が喋っているような音」に変えるところまで。残りは自分の仕事だ。

たまに動画1本にナレーションを付けるだけなら、無料のテキスト読み上げツールで全然足りる。でも僕みたいに週に何十本も作るなら、分割してまとめて生成する運用と、ファイル名のルールを決めたほうがいい。でないと、どの音声がどの商品のものか、自分でも分からなくなる。僕が踏んだ穴は他のチュートリアルにもまとめてあるので、よかったら覗いてみてほしい。

あ、あと海外向けに英語版の動画も出している。多言語の音声合成が無料で使えると、同じ原稿から英語ナレーションを起こせるので、吹き替えAIを無料で試したい人にはちょうどいい。電子書籍のオーディオブック用に音声を作成するのにも、同じ流れがそのまま使えた。

よくある質問

録音環境がうるさいとき、ノイズ除去してからクローンすればいい?

多少はマシになる。でも期待しすぎないほうがいい。ノイズ除去アルゴリズムは「換気扇の音」と「声に含まれる息づかい」を区別できない。ノイズを削るときに、声の細かい質感まで一緒に削っていることが多い。5分録り直すほうが早い。どうしても無理なら、クローゼットに入って扉を閉めて、背中に服を積む。この原始的な方法が、たいていのノイズ除去プラグインより効く。

動画のナレーションは、一度にどれくらい生成するのがいい?

カット単位で5〜8秒。長すぎるとアクセントとリズムが映像にハマらないし、短すぎると語気が不自然に切れる。分割して生成してから繋ぐほうが、通しで作るより圧倒的に融通が利く。やり直しのダメージも小さい。

無料の音声クローンで作った声は商用利用できる?

プラットフォームの規約次第だし、使い方にもよる。僕の中のルールはシンプルで、自分の声をクローンするか、同僚が明確に許可した声だけ。芸能人、配信者、出所の怪しい音声には手を出さない。他人の声で商品動画を作るのは、ツールがどれだけ便利でもリスクは現実に跳ね返ってくる。ここは譲れない。

今の流れはほぼ固定された。クローゼットで8分きれいに録る → アップロードしてクローン → カットごとに分割生成 → 1本ずつ試聴 → 編集ソフトに並べる。37本のナレーションは、結局2晩で埋め終わった。

もしあなたもこれから商品動画にナレーションを入れようとしているなら、まとめて生成する前に、5分だけ時間を取ってほしい。静かな場所を探して、丁寧にサンプルを録る。それだけで結果は変わる。これは、ボツにした37本と引き換えにした教訓だ。