深夜のアパート、電動ドリルと枯れ声
東京の端っこ、築30年の木造アパート。夜10時を過ぎても隣の部屋からリフォームの電動ドリルが「ウィーン」と鳴り響く。ベッドの上でマイクを向け、台本を読み返すたびに自分の声が「なんか違う」と耳に残る。最初の動画、11回も録り直したのに、再生してみると「あれ、俺じゃないみたい」と笑えてくる。
翌朝、会議で声を出そうとした瞬間、喉がガラガラと鳴って一言も出ない。同僚が水を差し出してくれたとき、ふと気づいた——チャンネル開設からまだ2週間、喉の方が先に限界がきていた。
観衆の耳は思ったより敏感
最初の10本は全部自分の声で出した。再生数は伸び悩み、サムネやタイトルのせいだと思い込んでいた。でもコメント欄を開くと、12件中7件が「声、疲れてない?」「風邪?」「お大事に」といった声の話題ばかり。地下鉄の車内で録った回には「電車の中で録ったの?」と即座にツッコミが入る。自分では気にならない環境音も、リスナーには丸聞こえだ。
それからは録音前にスマホでテスト録りをして、冷蔵庫のモーター音、隣の給湯器、遠吠えする犬……全部拾う。静かになるのは夜10時過ぎ、ドリルが止まってからの2時間だけ。その「ゴールデンタイム」を狙って録るようになった。
思わぬ収穫もあった。喉が半分潰れた日に、つい地元のイントネーションが混じったままアップした動画。翌朝見るとコメント欄が賑わっていて、「一発で関西弁だと分かった」「懐かしい」と地元民が集まってきた。訛りがマイナスじゃない、コンテンツによっては武器になるんだと実感した。
AI音声が引き受けた「私の出番じゃない」パート
声が出ない週、本気で AI音声 を試し始めた。最初の感想は「ずっと間違った使い方をしていた」というもの。
線引きは意外とシンプルだ。「私」が画面に出る必要のないパート——まとめ系、リスト系、データ整理系——なら AI音声 で十分通用する。例えば「東京23区の無料ドッグラン15選」みたいな回、自分で読むと9項目前後で舌が回らなくなる。AI音声なら各項目を一定のトーンで淡々と読み上げ、感情の揺れもないから聞き取りやすい。
声選びには丸2晩かけた。最初に選んだ「アナウンサー風」の音色はニュース番組そのもので、自分のゆるいトークと全然合わない。若めで少し抑えたトーンに変えて、速度も0.95倍に落ち着いた。なぜ0.95なのか理屈はない、ただ耳で「これだ」と思っただけ。
時間の帳尻も劇的に変わった。以前は録音だけで40分——録る→聞く→直す→また録る。今なら台本を書き上げた深夜に AI音声 で一発生成、翌朝の通勤電車でイヤホンチェック、昼休みに間の取り方を微調整、夜には公開。このステップで配音工程が10分強まで縮んだ。
30本中、後半20本のうち13本が AI音声 担当になった。
もちろん失敗もある。別れをテーマにした回、手間を省いて AI音声 に任せたら「感情がない、説明書みたい」とコメントされ、完播率が半分に落ちた。この一件で「感情が要るところは自分で喋る」と線が引かれた。
自分の声が残すべき3つの要素
では、自分の声は完全に引退か? 30本試した結論は「いいえ、でも条件付き」。
- 意見・スタンス —— 同じ結論でも、自分の口から出るときには「迷い」「勢い」が混じる。リスナーはその「荒さ」を受け入れ、むしろ親近感を持つ。
- 感情の切り返し —— 実家の庭が取り壊される話で「門柱にはまだ小学校の身長線が残ってる」と言った瞬間、自分で0.5秒間が空いた。その間合いを AI音声 は作れない。コメント欄には「自分の家のことを思い出した」と共感が殺到した。
- 安心感の蓄積 —— 古参視聴者が「オープニング聞いただけでお前だと分かる」と言ってくれた。この「声のブランド」は10本、20本と積み重ねて初めて育つ。一度全部 AI音声 に置き換えてしまうと、取り戻せない資産を失う。
今の分工ルール、そして始めたての君へ三つの言葉
今のルールは極めてシンプル。
- 意見・物語系 → 自分で録る
- 情報・リスト系 → AI音声 に任せる
サムネは統一テンプレート、声はバラバラでも視聴者は文句を言わない。彼らが求めているのは「この動画で何か得られたか」だけだから。
一人でチャンネルを回すなら、配音について伝えたいのはこの三点だけ。
- 台本はまず「人語」で書け —— 最後の皮である配音がどれだけ上手くても、台本が「プレスリリース調」なら誰の声でも救えない。初期の私が AI音声 で「ニュース原稿」を読ませたとき、機械的な安定感と人間臭さのなさが重なって完播率が惨憺たるものだった。
- AI音声を「自分の声」に見せかけない —— 視聴者は馬鹿じゃない。バレた瞬間、「ダサい」より「信用できない」が勝つ。使うなら堂々と「今回はAI音声です」と明記するか、最初から割り切って使う。
- 喉は消耗品、大事にしろ —— 私が10本連続で録って声を潰したように、喉は想像以上に脆い。本当に枯れたら AI音声 で数日凌げるけど、企画のアイデアが枯れたら終わりだ。
先日、実家の父から電話があった。「最近、マイク変えた? 声が元気になったみたいだぞ」。笑って答えた。「親父、マイクじゃない。やり方を変えただけだよ」。
使ったツールのメモ
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自分の声と AI音声 、どっちも「道具」だ。使い分けを決めるのは、結局のところ「何を伝えたいか」だけ。